死産に立ち会った助産師の葛藤
どうも。助産師コーチの馬場佐希子です。
今日は、読むと心が揺さぶられて、辛く感じる方もいらっしゃるかもしれないことを記事にします。
興味のない方や、読むのを苦痛に感じる方はそっとページを閉じてください。
死産に立ち会った新人助産師の葛藤
100件のお産に立ち会ったのを過ぎた新人助産師の頃、死産を担当することになった。
初めてのことだった。初めてのことでも、産婦さんにとっては「助産師」というプロフェッショナル。
だから、その時の自分にできる最善で最大のケアをしようと思って臨んだ。
たくさんの死産に関する本を読んで、病院の図書室でナース服のまま夜遅くまでネットにもかじりついた。
勤務後、図書室にこもって文献を読み漁った。
先輩たちにヒアリングしまくった。
そんなことをしたところで、現場はやはり初めてのことでどうしたら良いかなんて分からなかった。
持っていた知識も経験も総動員したけど、自分で決めた振る舞いがこれで良いなんて確信は全くなかった。
(もちろん、すぐに相談できる先輩が見守ってくれていた。)
ピンクのカーテンをしめた、昼間なの薄暗い静か過ぎる分娩室で産婦さんといっしょに折鶴をおった。
折り紙をしながら産婦さんは、ぽつりポツリと家族のことを話してくれた。
お腹の赤ちゃんのことには全く触れなかった。
ペーペー助産師のわたしは
(お腹の赤ちゃんのことは話したくないのかも。)
そう思って質問しないことにした。
話してくれるようになったら話を聞こう。
そんなスタンスだった。
薬で陣痛を起こすのだけど、産まれるほどの陣痛にはならず午前中の時間が過ぎていった。
とにかく、ひとりにしない。(ひとりになりたかったかもしれない。)“避けられている”そう産婦さんに思わせない行動をしよう。
そう心がけた。
産まれそうにないのでリラックスできるかな、と一度分娩室から出て個室に戻ることにした。
その30分後だった。
ナースコールがなった。
「呼ばれたのは私だっ!」
名前を確認する前にすぐに感じた。
なぜか勘が働いて、すぐに車椅子とともに小走りで部屋を訪ねた。
急を要する状況だった。
PHSで応援を呼んだ。
不安そうな産婦さんからの質問に
「大丈夫ですから!
今から分娩室に移動します。
他に分娩室に持って行きたいものはありますか?」
産婦さんの緊張が少しだけ和らいだのが表情からわかった。
その30分後、お産は終わった。
赤ちゃんは産声を上げずに産まれた。
片手の手のひらにすっぽりおさまる小さな小さな赤ちゃんだった。
わたしが産婦さんに付きっきりだった間に先輩が赤ちゃんの小さな小さなお布団とベッドを用意してくれていた。
赤ちゃんをきれいにして帽子をかぶせお布団に包んだ。
死産した子を見たくない人もいる。
少し落ち着かれた頃に
「赤ちゃんに会いますか?」
わたしはそう聞いた。
産婦さんはうなづいた。産婦さんはすすり泣きながら聞いた。
「男の子ですか?女の子ですか?」
わたしは
「ご自分でご覧になりますか?」
と確認してから、そっとお布団をめくった。
「ご家族だけの時間を過ごされますか?」
そう聞いて、退出した。
ひとり、トイレに隠れて泣いた。
先輩にはバレバレだったけど。
産婦さんの前で泣くと、産婦さんが泣けなくなる。
あの時のわたしはそう思っていたけどどうだったのかな。いっしょにわんわん泣いたら良かったのか。
翌日、先輩が赤ちゃんをお見送りするためにお花を持ってきてくれた。
かすみ草をお布団の周りに敷き詰めて赤ちゃんを送る準備をした。
折鶴もいっしょに入れた。
「他に何かしたいことはありますか?」
・写真が撮りたかった
・抱っこしたかったのにできなかった
・家に連れて帰りたかった
やりたいことができないまま、あっという間にお見送りになり悔いを残す経験者もいる。
沈黙のまま答えを待っていたらすすり泣きながら
「いっしょにいてくれてありがとう。
ひとりにしないでくれてありがとう。」
思いがけず、わたしに向けての言葉を聞いた。
その時、「あ、気を使わせてしまった。」
そう感じた。
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先日のわたしが所属するトラストコーチングスクールのオンライン勉強会のテーマが「ラポールメイキング」だった。
ラポールは聞き慣れないことばかもしれないが、臨床心理学の用語でセラピストとクライアントの間にある心的状態。相互信頼の関係。
「助産師」は時々産婦さんや家族に”先生”と言われたりする。
だけど、決して”先生”ではない。
産婦さんや妊婦さん、産後の方とは横並びの関係性と思っている。
そうか。
だから、わたしはコーチングに魅かれたし、コーチングを身に付けたい!そう思ったのかも。
急を要する状況で、産婦さんからの質問にとっさに安心させるための
「大丈夫です!」
という言葉を返した。
不適切だったのかもしれないと今でも思う。
「大丈夫」なんて、ぜーんぶ終わってみないと分からないことで
「大丈夫」なんて言葉は現場では軽々しく使えない。
ただあの時の状況判断から、その質問に対するわたしの答えは
「大丈夫です。安心して下さい。」
だったのだ。
あの時のわたしは必死で、どうやったら安心してもらえるのか。
ペーペー新米助産師を大きく見せるためのとっさの「大丈夫」だったかもしれない。
ほんとうは、産婦さんはあの時に、あの質問の裏にもっと聞きたいことがあったのかもしれない。
別の意図があったのかもしれない。
どうやったら初対面の若い助産師が、産婦さんに気を使わせることなく心を開いて安心してもらえたのだろう。
そんなことも考える。
もう、10年以上も前のことだけど今でもこうして思い出す。
当時のわたしに深い深いコミュニケーション技術があったならどんな対応をしただろうか。
だからわたしは、コーチングを学び続ける。
わたしの目標のひとつに、
『医療界と医療の教育にコーチングを導入する。』
というものがある。
先日の勉強会では、またその思いを強くしたのでした。
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